宇治十二景をめぐる part.10「槙島曝布」
こんにちは、マルです。
宇治ではまだ梅雨のまっただ中ですが、梅雨が明けた初夏の風景のひとつに、さらしがあります。
今回の宇治十二景は「槙島曝布(まきしまのばくふ)」をご紹介します。
「槇の島には、晒す麻布(あさぬの)。賊(しず)が仕業(しわざ)は、宇治川の、
浪か雪かと白妙に、いざ立ちいでて布晒す。
鵲(かささぎ)の渡せる橋の霜よりも、晒せる布に白味あり候。
のうのう山が見え候。朝日山に、霞たな引く景色は、
たとへ駿河の富士も物かは、富士も物かは。」
(槇の島の麻布を晒す貧しい家業の人たちは、宇治川の河原に行って麻布を晒す。
宇治川の川水に晒した布は波か雪かと疑うぐらい白く、カササギが渡した橋に置く霜よりさらに白い。
あれあれ山が見える。朝日山に霞のたなびく景色は、駿河の富士山の美しさにも決して劣らない。)
これは、北沢勾当が作曲し、深草検校が改作した地唄・箏曲の「さらし」の一節です。
宇治川の水で布をさらす描写を曲にしたもので、情景が鮮やかに目に浮かんできます。
「さらしのはじめは宇治槙嶋なり。京にては五条川原にあり。」と『人倫訓蒙図彙』(1690年)とあるように、
さらしは、夏の日に麻布を川の水で洗い、日に当てて白くする、かつて宇治川の風物詩として有名でした。
朝日山 麓の里の 卯の花を さらせる布と おもひけるかな(続千載集・藤原顕輔)
という歌には、初夏に咲く白く可憐な花、卯の花とともに詠まれています。
今も伝わる歌などから、当時の景色を思い浮かべてみてはいかがでしょうか。
次回の宇治十二景は、「扇芝孤松」をご紹介します。
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ヤマサン企画 マル